『ル・マルトー・サン・メートル( 主なき槌)』は、1953年から1955年にかけて作曲された、20世紀のいわゆる「現代音楽」を代表する作品だ。6人の奏者(アルト・フルート、シロリンバ、ヴィブラフォン、打楽器、ギター、ヴィオラ、声(アルト))による、9つの楽章から成る、演奏時間は約40分の作品。フランスの詩人ルネ・シャール(1907-1988)の、シュルレアリスム時代の詩がテキストに使われている。
1995年に東京で『ピエール・ブーレーズ・フェスティバル in Tokyo』。ピエール・ブーレーズはもちろん、マウリツィオ・ポリーニ、ジェシー・ノーマン、ギドン・クレーメル、ダニエル・バレンボイム、ピエール=ロラン・エマール、アンサンブル・アンテルコンタンポラン、ロンドン交響楽団・・・、蒼々たるメンバーが来日し、2週間にも及ぶフェスティバルが開催された。この『ル・マルトー・サン・メートル( 主なき槌)』も、ピエール・ブーレーズの指揮とアンサンブル・アンテル・コンタンポランのメンバーによる演奏で紀尾井ホールで上演され、ぼくも演奏会に足を運んだ。演奏者の息づかいまでも伝わってくる、最前列のしかも指揮台に立つブーレーズの足元の席。演奏が始まるや、その明瞭な音色と音楽の推進力に驚いた。そして、なんていったら良いのだろうか、まさに全身を包み込んだ『グルーブ』感!この日までCDでこの作品を聴いてきた時には、どうしても「現代音楽」という先入観からか頭で聴いてしまっていたためか、気がつくことができなかったが、この日の『ル・マルトー・サン・メートル( 主なき槌)』は、ドビュッシーの音楽の如く身体に染み込んできたのだ。
『ピエール・ブーレーズ・フェスティバル in Tokyo』を主催したKAJIMOTOによると、ブーレーズは「現代作品の演奏会が集客面でうまくいかないのは、奏者が音楽を本当の意味で自分のものにしていないから。現代音楽こそ説得力のある演奏をしないと、聴衆を魅了することができない。」と話していたそうだが、まさにその言葉通りの演奏だった。
1995年『ピエール・ブーレーズ・フェスティバル in Tokyo』カタログ
CD『ル・マルトー・サン・メートル( 主なき槌)』