先の見えにくい不安な時代、人は確かなものとしてまず自分の身体を確認しようとします。この身体にある感覚や記憶、知恵がどこからきたのか痕跡をたどろうとするのです。
ダ ンス、能・狂言や歌舞伎などの伝統芸能、演劇、スポーツ、武道などの身体表現は、言語を超えたコミュニケーションとして、あるいはローカルなトポスや文化の記憶として、私たちの精神生活に深くかかわってきました。にもかかわらずそれらの多くは、アートの歴史において、モダニズムの価値観からとりこぼされてきたのです。
本展「新たな系譜学をもとめて」は、身体に残された記憶や知の痕跡が、それぞれの時代の表現にとりいれられ、新たな創造を産み出してきた系譜をたどり、現在の表現を見直すことを意図しています。今回は狂言師であり、現代演劇やパフォーマンスへの出演や演出でも活躍する野村萬斎を総合アドバイザーにむかえます。その身体は600年にわたる伝統の型を継承しながら、現代まで一気に跳躍して、さまざまな現代の表現と交わることで、新しい創造の遺伝子をつくりだしています。例えば、極限まで簡潔化された能の動きは、言葉を排して、ミニマルな形の反復を特徴としたダムタイプとつながり、新たな系譜学の可能性を示唆します。
本展は、絵画、映像、インスタレーション、50年代以降の能や舞踏など前衛とのかかわりをたどる資料展示や、会場内で行なわれるパフォーマンスとあわせて構成されます。従来のアートにおけるパフォーマンス展にはなかった、新しい展示の試みとなります。
*ダムタイプの新作展示期間は9/27~11/16
(写真:ダムタイプ「Voyage」2002年 Photo: Kazuo Fukunaga [参考図版])